2014年05月08日

今すぐ、紅茶を入れますからね

紅茶

ある家では今朝早く、女の赤ちゃんが生まれました。女の子を待ち望んでいた夫妻とその息子たちは、名前を考え始めました。すると、末息子が得意げに言いました。

「この子の名前はジョンだよ!」

一家は大笑いしました。

「それは男の子の名前よ。でも、そうね、ジェーン、というのはどうかしら?」

ジェーンと名付けられた女の子は、大切に育てられました。

*     *     *

アンジーは部屋で遊ぼうとホームページ作成ソフトの準備をしていましたが、お母さんに見つかってしまいました。

「アンジー、今日は牧師さんの所に行く日でしょう。教会の花壇を荒らしてしまうなんて、本当に何て悪い子なの。ちゃんとお説教してもらうのよ」

アンジーは渋々、教会に向かいました。

*     *     *

貧しい下宿屋の一室では、姉と弟が肩を抱き合って喜んでいました。弟の絵がとうとう認められたのです。

その日の午後、ミス・ハバレーがやって来ました。片手に大きなバスケットを提げ、もう一方には小さなペルシャ猫を抱いていました。

「ミスター・ジョーンズ、今日は自慢の仔猫を連れて参りましたの。それと、うちの自慢のコックが焼いたクッキーも」

「これは、これは・・・」

ミスター・ジョーンズは素早く身なりを整えると、ミス・ハバレーを招き入れました。

「どうぞ、おかけ下さい。今すぐ、紅茶を入れますからね」

そう言うと、ミスター・ジョーンズは何事もなかったかのように、再び紅茶を入れにキッチンに向かいました。洋服ダンスには、いつものようにダウンがかけられていました。  


Posted by 弘せりえ at 17:25Comments(0)短編

2014年04月10日

手紙がポストに戻って

郵便ポスト

ミスター・ジョーンズが手紙を出して数日後、再びミス・ハバレーから手紙を受け取りました。それには結局彼女がヒマラヤンをもらったことが書かれており、その猫の愛らしさがつらつらと書き連ねてありました。さすがのミスター・ジョーンズも少々気分を害してしまいました。

「結局ヒマラヤンをもらうのなら、私にあんな相談を持ちかけて欲しくありませんね」

しかし、最後の追伸を読んで、おや、と思いました。返事を待っていたのに誕生日を過ぎても届きませんでした、とあるのです。

「・・・どうしたことでしょう。住所を書き間違えましたかね?」

その日の昼下がり、赤字で修正されたミスター・ジョーンズの手紙がポストに戻ってきていました。

「やはり住所を書き間違えたのでしょうか・・・」

そう言いながら手紙を手にしたミスター・ジョーンズは赤い文字を見てぎょっとしました。そしてぶるぶると震えながら部屋に戻り、どうしたことかとしばらくうろつき、とりあえずキッチンでティーカップを取り出しました。

「ま、まずは落ち着かなければ。紅茶を飲みながら、ゆっくり考えましょう・・・」

ミスター・ジョーンズは味もわからぬまま、紅茶を飲み始めました。半分くらい飲み終えた時、どこからともなくカシャンカシャンという音が聞こえてきました。その乾いた音に憶えがあります。ミスター・ジョーンズがおっかなびっくり耳を澄ましていると、やはり地下から聞こえてくるようでした。

「・・・あの、タイプライターですか・・・?」

ミスター・ジョーンズは手紙を握り締めると、地下室に降りていきました。物置部屋に行って、ランプに灯を入れると、ぼうっと薄暗い部屋の中が映し出されました。そこでミスター・ジョーンズは腰を抜かしそうになりました。何とあのタイプライターが、紙のないまま独りでにキーを叩いているではありませんか。その様子は何かを切実に訴えているように見えます。

「・・・紙を、ここに戻せばいいのですか・・・?」

ミスター・ジョーンズは震える手で手紙の封を切ると、便箋を元あった場所に戻しました。その紙にはもはや彼の筆跡はなく、ただの紙切れになっていました。 ミスター・ジョーンズはそのまま静かにそこから離れると、一目散に地下室を後にしました。

*     *     *  


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2014年04月07日

女の赤ちゃんが生まれました

女の赤ちゃん

ある家で、今朝早く女の赤ちゃんが生まれました。女の子を待ち望んでいた夫妻と三人の息子たちは、すぐにその子にジェーンという名を付けました。その日の午後、召使が夫婦のもとに飛んで来ました。一家が彼女に連れられて行ってみると、ジェーンは同じ顔、同じ服の男の子になっていました。三番目の幼い息子はあどけなくこう言いました。

「パパ、ママ、この子の名前はジェーンじゃなくて、ジョンだったんだよ」

 *     *     *

その日の午前、ある家に悲しい知らせが届きました。川遊びをしていた末息子のアンジーが川に流されてしまったのです。二日後、村の教会でアンジー少年の葬儀が行われました。村人や友人の多い中、一人の見慣れない少女が色とりどりの小さな花束を抱えて、アンジー少年の母親の前に現れました。

「小母様、どうかお気を落とされないで」

少女は夫人に花束を渡しました。それは小さな丈の短いブーケで、中にはパンジーの花が咲き乱れていました。

「ねぇ、教会の裏のパンジーがみんな枯れてしまってるよ」

一人の少年がそう叫びながら、重々しい教会の扉を開きました。逆光の向こうには、アンジー少年が立っていました。牧師は大切に育てていたパンジーが枯れてしまったと聞いて、こう叫びました。

「おお、憐れなパンジーよ、神の御許へ」

 *     *     *

ある少女が、町で一番大きなお屋敷で働いていました。彼女には絵描きになることを夢見ているカウという名の弟がいて、二人で力を合わせて暮らしていました。しかしちょっと前、カウは彼女を残して一人、旅に出てしまいました。少女は弟を無くしたようで、寂しい毎日を過ごしていました。

ある日、お屋敷の庭に出た瞬間、彼女は大きな猫の姿を見ました。それは黄色く透き通るような目をしたペルシャ猫でした。その美しい瞳は、まさしくカウ彼自身でした。彼女は駆け寄ると、弟を固く抱きしめました。そしてその日のうちにカウと一緒にどこへともなく姿を消してしまいました。  


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2014年04月04日

古いタイプライター

古いタイプライター

ある昼下がりのこと。ジャケットを脱ぐと、ミスター・ジョーンズは一通の手紙を受け取りました。それは愛しいミス・ハバレーからのものでした。

「これは、これは、光栄ですね」

ミスター・ジョーンズはパリパリ音を立てながら、スズランの香りがする便箋を開きました。

「‘親愛なるミスター・ジョーンズへ。今日は大切なご相談がしたくて筆を取りました。‘
・・・大切な相談・・・?
‘わたくし、今度のお誕生日に叔父様に可愛い仔猫を頂くことになっております。‘
・・・ふむふむ。
‘あの素敵なウィリー叔父様から頂けるのなら、わたくし、四つ角の黒猫だって構いません。‘
・・・ミス・ハバレー、それはよくないですよ。
‘ところで、叔父様はわたくしにペルシャ猫かヒマラヤンのどちらかを贈りたいと言いますの。ミスター・ジョーンズ、わたくしはいったいどちらを選べばよいのでしょう、教えてください。
                        C・ハバレー‘」

ミスター・ジョーンズは一通り手紙を読んで呆然とし、そしてもう一度素早く読み直してつぶやきました。

「ミス・ハバレーはこんな重大なことを私に決めさせるつもりなのでしょうか」

ミスター・ジョーンズは、すぐさま返事を書くために便箋を探しましたが、見当たりません。

「何せ、手紙を書くのは久しぶりですからね」

そこで、地下の物置部屋に行って探してみることにしました。物置部屋に入ると、まず入り口にあるランプに火を入れなければなりません。この部屋はまわりが石の壁で、窓というものがないのです。

「我が家でありながら、気味悪いですね」

ミスター・ジョーンズは薄暗い部屋の中をぐるりと歩いてみました。すると、隅っこの古い机の上に、これまたかなり古いタイプライターが置いてあるのに気付きました。それにはすでに紙がセットしてあり、まるで文字が打たれるのを待っているかのようです。

「誰がいつ、こうしたのかわかりませんが、ちょうどいい」

ミスター・ジョーンズは手紙を打ち始めました。

「え~、‘親愛なるミス・ハバレーへ。‘」

古いタイプライターの、乾いた音が響きます。

「 ‘お手紙ありがとうございました。大切なご相談を受けて光栄であります。えー、‘わたくしが考えますところ、ペルシャ猫は野性味を帯びた高貴さを持ち、ヒマラヤンは貴族的な優雅さを持っております。貴方自身を譬えれば、知性に溢れたヒマラヤンですが、貴方を守るナイト役にはペルシャ猫の方がふさわしいかと思われます。できることでしたら、わたくしがペルシャ猫となって、貴方をお守りしたいと思う次第であります。                      C・ジョーンズ‘」

ミスター・ジョーンズは追伸として、ミス・ハバレーの緑色の瞳はペルシャ猫の黄色い目とよく似合うと付け加えました。そして、すぐにそれを投函しました。

 *     *     *  
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Posted by 弘せりえ at 11:54Comments(0)短編